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愛情は皮一重

 むくり、とヴァッシュはその傷だらけの体を横たえていた寝台から身を起こした。
 周囲の部屋もすでに遅い時間とあって、しんと寝静まっている。
 久しぶりの沈黙の中をほんの少し嬉しく思って、カーテン越しに流れ込んでくる柔らかい月の光を浴びながら、ゆっくりと伸びをする。したところで、突如感じた下肢の鈍い痛みにヴァッシュはひくりとその形のいい眉をしかめた。
「…………っっ」
 ふと気がつけば、自分の無残な傷の間にほんのわずか残された白い肌。その隙間を埋め尽くすかように鮮やかな薄紅色の瘢痕が残されている。うっすらと浮かび上がるその痕をなぞるように指を滑らせると、つい数時間前の情交を思いだしやれやれと溜息をついた。
「ウルフウッド……君ってヤツはまったく」
 言って、脇で熟睡モードに入っている旅の連れを見やる。さっきまで肌を重ねて熱を奪い合っていたのがウソのように穏やかな寝息を立てている。
 こころなしか、中天に浮かぶ二つの月まで二人の睦事を見守っていたかのように思われ、ヴァッシュは不意に羞恥に頬を染めた。

「こっちはいい加減年なんだから、手加減してくれないと困るんだなぁ。若者なんだから……ああ、眠れないって。こんな中途ハンパな時間じゃ」
 照れ隠しにぶつぶつといいながらも、起こさないようにそっとベッドから滑り降りると、ヴァッシュはシャワーを浴びにそっと抜け出した。

 暫くして戻ってきたヴァッシュはいつのまにやらベッドのど真ん中に大の字になって睡魔を貪っている牧師にア然としていた。
……ねぇ、僕の寝る場所はぁ……?」
 その重い体を押しのけて隙間を作り、ようやく寝場所にはいあがる。なんといっても、あのクソ重いパニッシャーを片手でぶん回すテロ牧師である。筋肉の付き加減とていい、そのパーフェクトボディ(笑)をずらすのは並大抵の苦労ではない。
 しかし、こちらも赤いコートの死神だの人間台風だの言われている立派な人間外生命体。たやすく押しのけて、軽く枕を叩いて膨らませる。
「そういえば、キミがここまでぐっすり眠ってるの見るの始めてかもしれないねぇ」
 枕を胸のしたにあてがいだらりと寝そべったヴァッシュは息が掛かるほど近くの牧師の頬をその長い指でやさしく撫で下ろす。
 そっと手を伸ばして鼻をつまんでやると、
……やめんかい、トンガリぃ……」と、ウルフウッドは無意識に身をよじってその魔手から逃れようとする。
 眠っているせいか、その言葉尻もいつもよりずっと柔らかい。

 なんだか、自分を呼んでくれるその声が嬉しくて、そしてその様子が面白くて何度か繰り返しているうちにヴァッシュの心の中に昔の思い出が甦ってきた。

  宇宙船の中、擬似映像が広がる草原の中、
  レムが女神のようにやさしく微笑み掛けている。
  彼女の膝の上にはまだ小さいナイブズが穏やかな寝息を立てて眠っていて、
  自分はその脇に寝転びながら実はちょっと羨ましく思っている……。
  そんな胸が痛くなるほど懐かしいあの光景。


  そう。あの時レムはゆっくり僕に笑って言ったんだ……。

  「いいこと、ヴァッシュ?
  人が眠れなくて苦労してるのに安眠ぶちかましてるような人にはね、

  ちょっとくらいイタズラしてもぜんっぜかまわないのよv」

  そして、レムの手にはフェルトペンが……(笑)


 くつくつと思い出し笑いをしながら、ヴァッシュはウルフウッドの寝顔を見つめた。
 ――別に苦労してるわけじゃないけれど、愛があるからいいよね、レム?
 そう一人言ちて半身を起こしたヴァッシュは、ウルフウッドの体に覆い被さるようにしながらナイトテーブルに手を伸ばした。
 
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