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−01−
 銀線が弧を描いて舞い降りる。
 鋼に当たって煌く日差しと吹きあがる血飛沫。どぅと音を立てて最後のモンスターが血に崩れ落ちた。
「お疲れさん」
 正宗の血を振り落としたセフィロスにザックスはゆっくりと歩み寄った。
「ふん、楽しめもしなかったがな」
「そりゃあ、アンタが出会い頭にファイガなんぞぶっ放したからじゃねェの?」
 バスタードソードを肩に担いだまま、ザックスはげらげらと笑い転げた。
 夜が明けかけた地の端には、ミッドガルの灯りが微かに瞬いている。うっすらと残る月光の下、二人の周囲には焼きこげ、叩き割られたモンスターたちが無残な姿をさらしている。
「そうでもせねば、手間が掛かってしかたあるまい?」
「……よく言うぜ」
 ザックスがソルジャーになって半年あまり。初っ端から神羅の英雄と組まされたときは、あこがれ含めて喜び半分、これからどうしたものかと不安が半分だったが、今ではセフィロスの自宅に転がり込んで居候を決め込むぐらいの仲だ。二人のコンビを決定した上層部の先見の明というヤツだろう。
「それにしても、オレたちもヒマだよな〜。非番だっつーのにモンスター狩りなんてよ」
「お前がヒマだヒマだと駄々をこねるからだろう」
「あれ、オレそんなこと言ったっけか?」
「…………」
 沈黙してしまったセフィロスの肩をバンバン叩きながら、ザックスはにかっと笑った。
「いいじゃんか、もう終わったことなんだし。細けーこと、気にすんなよ」
「……何が終わったんだ?」
 あきれて眉をひそめる相棒にザックスはずぃっと腕時計を突き出した。
「今何時だ?」
「……それが何か関係あるのか?」
「今日、アンタの誕生日じゃなかったっけ? 早くかえんねーとヴィンセントがミッドガル中探しに走り回るぜ」
 しまった、と動きを止めたセフィロスをにまにまと眺めながら言葉を継ぐ。
「あの人も、アンタのことになるとすっげームキになるじゃん」
「……あれもどうして、俺のことを殊更構いだてしたがるんだかな」
 セフィロスは重くため息をついた。
 自宅にいる使用人以外の最後の一人、ヴィンセントはセフィロスの物心ついたときからの母親代わりだ。
 自分だってれっきとした男のくせに家事万端軽くやってのけるし、セフィロスに対する過保護ぶりときたら、そこらの母親を遥かにしのぐ親バカっモードである。
 それでいて、その昔は泣く子も黙るタークスのエースだったというだから恐れ入る。
「確かに、『神羅の英雄』様が傷つく事態なんて早々起きねーと思うけどさー」
「……とにかく、急いだ方がよさそうだな」
 セフィロスの言葉に一つ頷いて、ザックスは腰から取り出したPHSの電源を入れた。

 時既に遅かりし。
 自宅に辿り着いたころにはすでに日は中天高く上っていた。
 なるべく見咎められないようにそっと入り、自室へ消えていくセフィロスを見送ると、ザックスは腹ごなしとばかりに厨房に向かった。
 とりあえずの腹の足しにと馴染みのオバちゃんにねだって作ってもらったサンドイッチを頬張っていると、うんざりしたような様子のタークスが一人入ってきた。
「よぉ、レノじゃねーの」
「あ、ザックス! オマエ、今までどこ行ってたんだ!? すっげー探し回ってたんだぞ、と」
 どっかりと椅子の一つに座りこんだレノはちょっと逆立った髪にがしがし手を突っ込んだ。
「あんたらがいないってんで、ヴィンセントがヒステリー起こしたんだな、と。こっちはとばっちりでミッドガル中走り回ってたんだぞ、と」
「そりゃあ、悪かったな。こー休暇続くとヒマでさ。セフィロス誘ってモンスター狩り行ってたんだわ。奴さんもそろそろ来るだろうし、勘弁してくれや」
 ちょっと神妙な顔になったソルジャーを「へん」と見やる。御詫びに差し出したサンドイッチは見る間にレノの胃に消えていった。
「……っとすまねェな。朝飯も食わずに駆り出されちまったんだな、と」
 いや、と笑ってザックスは空になった皿を受け取ると、いつものように食器洗い機に放り込んだ。
イヤならサボってしまえばいいものを律儀に探し回るなんてまったくレノらしい。
 だが、ヴィンセントがそこまでとさかに来ているというのはザックスにとってもちょいと予想外の事態だった。なにせ、自分のワガママでセフィロスをモンスター狩りに引きずり出したのだ。居候としては肩身が狭い。
「……そういや、タークスが街中で探してたのに、あんたらどうやって帰ってきたんだ?」
「なーに、俺たちゃここ一番ってときにはどんなことをしてでもそこにいるのさ」
「それが、ソルジャーなんだか、と。まぁ、イイケド。
 次やるときは、ヴィンセント怒らせないようにするんだぞ、と」
「おう! とばっちりで済まなかったな」
「酒でも奢ってくれりゃ、綺麗に忘れてやるだぞ、と。高給取」
 もぎゅもぎゅと食べつづけるレノを置いて、居間のほうに引き返すと、風にのって話し声が洩れてきた。
 そっと様子を伺うと無言のセフィロスが困ったような表情をかすかに浮かべて、ヴィンセントの前にいる。
 ―――あちゃー。旦那、捕まっちまったか。
 とりあえず、腹をくくって鼻歌なんぞ歌いながら入ってみる。
「……って、いつも遠征だなんだと駆り出されているんだから、たまの休みにくらいちゃんと休息を取らないとダメだろう」
「大丈夫。問題ありませんよ」
「しかし、英雄とはいえ不死身じゃないんだぞ!?」
 ……ゴホン。
 ワザとらしい咳に二人がザックスの方を振り向いた。助かったとばかりにセフィロスがザックスに歩み出した。
「待たせたな、ザックス」
 ヴィンセントは残念そうに、セフィロスの腕を軽く握ると「今日くらいうちにいろよ」と言い残して奥へと消えた。
 その後姿にやれやれとため息をついて向かってきたセフィロスにザックスは「悪りィ!」と、両手を合わせた。
「タイミング的には申し分なかったな」
「むっちゃ修羅場ってたよーに見えたケド?」
「いつものフルコースだ」
「ああ、例のヤツ」
 例によって、非番のときぐらい危険なことは止めろと連呼するのはともかくとして、なぜ身を固めろと進むのか。
 自分だって独身男子のくせにどーにも理不尽だな、とザックスは思うのである。
 自分自身に関しては自覚がないらしいが、他人に常識を求めるあたり、ナニカが違うと思うのは、この家の関係者全員が一致する意見だろう。
「ま、確かにそこらの常識家だったら『英雄』のおっ母さんはつとまんねぇよなぁ」
「……なにか言ったか」
 冷たい視線を受けて、さてね、とごまかし笑いをする。
「んで、今日はどこにも行くなって?」
「……らしいな。別に日がな一日本でも読みながら過ごすさ。
 お前は街にでも下りてきたらどうだ? ミッションが始まれば女性の姿も早々拝めないぞ」
「ん〜、そーだよなー」
 ザックスは顎に手をやって考え込んだ。ミッションが始まって、それがどっかの街の近辺だったら、上手くいけば女の子だって選り取りみどり。しかし、なんにもないエリアでの演習なんて入った日には、長期にわたって来る日も来る日も野郎ばっかリ。
 相棒の美人な顔だって、所詮野郎の面である。女の子の笑顔とは価値が違う。
「んじゃ、ちょいとオレ行ってくるわ」
 ぱぱっと結論を出すと、ザックスはくるりと踵を返した。
「ガハハ野郎から召集掛かったら、オレのPHSに入れてくれよ」
「分かった」
と、手をひらひら振ってセフィロスの視線が窓を掠めたところで、ひたり、と視線が止まった。ものすごくイヤそうな表情、そしてて顰めた眉。
「ザックス……」
「ん? なんだ?」
「私も行く」
「……って、あんた、今日1日、自宅待機じゃなかったのか?」
 突然の豹変ぶりに、訝しげなザックスの襟首をぐいとひっ掴み、セフィロスは奥に戻ろうと足を速めた。
「……宝条と顔を合わせるぐらいなら1日ミッドガルをほっつき歩いた方がマシだ」
 その声音にこめられた嫌悪の深さに、宝条博士に対する日頃の態度をも重ねあわして、ザックスは納得した。
「あのマッドサイエンティストがくんのか?」
「門の所にいる。さっき、窓から姿が見えた」
「……あんた視力幾つだ?」
 その問いには答えず、正宗を振りまわす腕力をフルに活かしてザックスを引きずっていく。廊下をずるずるとひっぱられながら、ザックスはじたばたもがいた。
「ち、ちょっと待て! 旦那、玄関は反対方向だぜ!」
「正面から行くと宝条に出くわす。裏から回る」
「あんた……ホントにあのおっさん、嫌いなのな」


「おや、ヴィンセント。セフィロスはどこに行ったのかね?」
 いつもの白衣姿のまま現れた宝条にヴィンセントは無表情に応対した。
「さあ。あんたが来るんで、また外出したんじゃないのか?」
「……ふん、そうか。誕生日に祝いの言葉でもかけてやろうかという気になったんだが……まあいい」
「あんたがか? そんな感情があったとは驚きだ」
「お前やセフィロスに限らず、サンプルにはそれなりの愛情を示しているつもりだが?」
 思いっきりイヤそうな表情を浮かべるヴィンセントの前で、何がおかしいのかひとしきり笑った宝条は勧められもしないうちからどっかりとソファに腰を下ろした。
「それで、ヴィンセント」
「なんだ?」
 こんなもったいぶった言い方をするときはなにある。
 過去の経験から学んでいるヴィンセントはしかめつらで応えた。なんだって、こいつは干渉してくるんだか。
 宝条はセフィロスの父親のはずなのだが、結局サンプル扱いしかしなこなかったため、なんとなくサンプル仲間(笑)のよしみでヴィンセントが育てるハメになり、今に至っている。
 さすがに、セフィロスが「英雄」とまで言われるソルジャーになってからはサンプル扱いなどもっての他として、ヴィセント共々そういう意味での干渉はなくなったのだが、今度は始終現れては意味もない(ようなこと)を呟き、なんだか胃痛を起こしそうな状況に彼らを落としては去っていく。
 絶対楽しんでいるんだ、と二人は信じて疑わない。
 最初の1回目で懲りたセフィロスが、宝条との接触を悉く切り捨てているために、全ての応対をヴィンセントがしなくてはならないのがまた苦痛なのだが。どーせ、セフィの養育権を放棄したも同然なんだから、自分たちに関わるなといいたいのだが、未だに強く言えないでいるヴィンセントだった。
「痕でな、ルーファウスがこっちに来る」
「ルーファウスって副社長の? プレジデント神羅の息子がなぜウチに?」
「セフィロスに会いたいんだそうだ」
 嫁志願らしいから仕込んでやれ、と言われてヴィンセントはがっくりきた。宝条との会話でこんなに疲れたのは久々だ。
「……何を仕込むんだ?」
「家事全般にきまってるだろう。お前の十八番だ」
「大体、なぜ私が仕込まねばならない。そもそもなんだって、セフィの嫁なんかに自主志願して来るんだ?」
「そんなこと知るか」
 お前が仕込まんで誰が仕込む。言外にそう言われて、頭痛がいや増す。思わず、頭を抱え込んでしまったヴィンセントの前に、ふと影が落ちた。気がつくといつのまにか目の前に宝条が立っている。
「……ヴィンセント?」
「あ、なんだ、宝条?」
 振り仰いだ先の目を見据えると、宝条は冷徹な眼差しでじろじろとヴィンセントを眺めまわした。
「お前、なにか私に隠し事をしてるんじゃないか?」
「…………」
「秘密だというなら絶対に口外しない。信用してくれ。……その代わり、私に隠し立てをしているんだったら、それなりの覚悟をしておくことだ」
 言うだけいって、くるりと居間を出ていく宝条の白衣を眺めながら、ヴィンセントは途方にくれたように呟いた。
「……ってお前が信用できたら、私はこんなに苦労しないと思うんだが」
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真人:すごいところで尻切れトンボしております。
次回、ルーファウス&クラウド登場! おたのしみに〜