→BACK

−02−

 ヴィンセントとの話を終えて、玄関に向かう宝条の前にふと大きな影が落ちた。
 臆することなく足を進めながら、宝条はついとその眼鏡に手を当てた。
「指示どおりにやっているかね? バレット君」
「なんとかやってるぜ、旦那」
 のそり、と陰から現れたのは、この館でも古株の使用人バレットだった。昔事故で片腕を無くしたとマシンガンの義手をもった彼は、主不在の館の護衛代わりとしても重宝されている。
「ったく、簡単に言うんじゃねェよ。そう簡単に掴めるわけねぇだろうが」
 ぶすっとした表情で今一人の雇い主にバレットは文句をいった。
「だいたい、相手はソルジャーなんだぜ。なんだかんだといっちゃあ、外にいってるんだ。そんなこた、神羅のあんたの方がよく知ってるんじゃねぇのか?」
「そんなことは当たり前だ。ヴィンセントから目を離すな。私が知りたいのは、ヴィンが隠している【何か】だ」
「だから、ちゃんとやってるって言ってるだろーがよ、先生」
「【何か】がセフィロスとザックス、どちらに関係あるかはまだ分からんがな……。
 あれで、昔は私に隠し事などするような奴ではなかったんだがね」
 例によって人の話をまったく聞いてない様子で宝条がぼそぼそと喋るのを、バレットはウンザリした様子で遮った。
「わかったよ。とにかくもうちっと時間が掛かりそうだ」
「いいだろう」
と、宝条博士はぴたり、とその指を部下に突きつけた。
「日頃がどうであれ、ソルジャー1stと元タークスの腕利きだ。気取られるようなヘマはしないでもらいたいね」
「分かってるよ。あんたも例の件、よろしく頼むぜ」
「……ああ。君のクズ同然の反神羅テロ組織への魔光炉の情報だね。まぁ、教えたところで君たちにどうこうできるものでもないと思うが、覚えておこう」
「…………あんた、俺様に喧嘩売ってんのか……?」
 容赦のない描写に青筋を浮かべたテロ組織アバランチのリーダーは義手を思わせぶりに振りかざして見せたると、宝条は「声が大きい」と眉をしかめた。
「君のような筋肉系とやりあうほど愚かではないつもりだがね。さて、では私も行くとしよう。十分に気をつけたまえ」
 遠ざかる白衣の背にパレットは勢いよく生身の中指をおったてると、毒々しげに吐き捨てた。
「ったく、ムカつく野郎だぜ」

 ほとぼりを冷ますために飛び出した館の二人の住人が戻ってきたのは、夕闇が差し迫ってくる頃だった。
「やぁ、すっかり遅くなっちまったな」
 木立が重くのしかかるような小道を抜けながら、大きく伸びをする。伸ばした指先に不意に大きな月が現れて、ザックスは目を細めた。
「それにしても、お前、いつもあんな感じでスラムで遊んでいるのか?」
 いささかくたびれた様子で横を歩くセフィロスに、ザックスはにかりと歯を見せて笑った。
「おうよ、旦那も一緒だったから今回は店もオンナノコ達もピカ一のトコばっかりにしたんだぜ? んで、ご感想は?」
「…………」
 敢えて沈黙でお茶を濁そうとしたセフィロスは、普段と違う館の雰囲気に不意に伏せていた面を上げた。
「……?」
 同様にザックスも反射的に背負ったバスターソードに手をかける。日頃が静かな館内がざわめいている様子を感じ取ると、ついで、ゆっくりと足を踏み入れた玄関前に見慣れない高級車が止まっているのに気が付いた。
「宝条の奴がまだいんのか?」
「違うだろう。あいつはこんなものに乗ってくるとこを私は見たことがないがな」
「ンでも、こいつは神羅のお偉いさんたちの社用車だぜ」
 剣からようやく手を離して、しげしげと車を観察するザックスにしばらく薄闇の向こうをすかすように見ていたセフィロスがようやくコートを翻して、扉へ向かった。
「言っていても始まるまい」
「確かに。ま、なんとかなるだろ? とりあえず、腹も減ったしな」

 ダイニングに足を踏み入れた二人の視界に入ったのは違和感ありまくりの光景だった。
「おかえり、セフィ、ザックス」
 気配に振り向いたヴィンセントが巨大なスープ鍋をテーブルに据えて、皿に掬っていたのはいい。いつものことだ。
 何故かよく似合っているパステルピンクのエプロンをしていたのも百歩譲って良しとしよう。
 問題は、テーブルの向こうで薔薇を花瓶に活けようと、おそらくヴィンセントのものだろう花柄エプロンをつけながら四苦八苦している金髪の主だった。
「……ルーファウス?」
 困惑を隠し切れずにセフィロスが呟くと、巷で人気の副社長との遭遇にザックスも目を丸くした。
 その声にぱっと顔をあげたルーファウスはアコガレの英雄様の姿を見て、頬を紅く染めた。
 声をかける間もなくさっと側近であるツォンの陰に隠れて、もじもじとしている。
「セフィ、ルーファウスは知ってるな」
 エプロンを外しながらヴィンセントは苦笑交じりに説明役を引き受けた。
「今日からうちに花嫁修業にきた。おまえもよろしくみてやってくれないか」
 内容を咀嚼するのにたっぷり時間をかけてから、ソルジャー二人は「はぁ?」と思いっきり胡乱気な声をあげた。
 ヴィンセントとルーファウスの間を視線の往復をしていたセフィロスは、怪しいほどニコヤカなヴィンセントを階段の脇へ引っ張っていった。もちろん、ザックスも金魚のウンチよろしくいっしょにちょこちょことついていく。
「……で、ヴィン? なんだってここにルーファウスが?」
 ルーファウスの視界から外れたことで、実はセフィロスやザックス以上に困惑していたヴィンセントはようやく仮面のように張り付いていた笑顔を取り外した。
「なんか、おまえたちが逃げ出したあと宝条が来て、今日からルーファウスがくるから仕込めって言われたんだ」
「ってコトは、旦那の花嫁候補ってコト?」
 ひゅーひゅー、いよっ、ダンナもてるねぇ〜v
 無責任にヤジを飛ばす同僚をモンスターもひるむような氷の眼差しで黙らせて、セフィロスはヴィンセントに向き直った。
「とにかく帰らせるわけには行きませんか? だいたい、男のルーファウスとなんでオレが結婚なんぞしなくちゃならないんです?」
「そこらへんは宝条が何とかするって言ってたよ。
さっき、プレジデントにも抗議したけど、ルーファウスがどうしてもやりたいってきかなかったから、やらせてやってくれって反対に頼まれたんだよ」
 ははは、と乾いた笑いが洩れる。すでに投げやりなヴィンセントから察するに、事態を収拾しようとして見事に自爆したらしい。タークス現役時代、プレジデントの専任警護役だったお気に入りのヴィンセントの直訴をも退けたあたり、ルーファウスもしっかり根回しは終わっていたようだ。
 (義理の)息子に人並み以上の夢や希望を抱いていたおっかさんは目の前の現実から完全に逃避していた。
「副社長が英雄さんトコで家事修行なんて、よく考えっと、神羅もけっこー暇なんだな」
 ふんふんと他人事に楽しそうなザックスが不意に視線を横様に流した。
 戦闘以外の大ボケ親子(偽)は気づかなかったが、不審にこそこそ話し込んでいる花婿候補たちの様子をさすがに訝しく思ったのだろう。階段の端からおずおずとルーファウスがうかがっている。
「……って、オイ、セフィの旦那〜♪」
 気が付いているのかいないのか、セフィロスは大きくため息をつくとはっきりとヴィンセントに明言した。
「とにかく、誰であろうとオレはまだ結婚する気なんかハナからないです。ヴィンセント、こんどの任務から帰ってくる前になんとかルーファウスは返しといてください」
「……っっっ、旦那!」
「っっツォン〜っっ!」
 言い捨てて部屋を足音も荒く出て行くセフィロスに、半ば泣き出してツォンに泣きついたルーファウスは涙にぬれながらセフィロスの消えていく後姿を見守っていた。
「……あ〜」
 何ともいいがたい沈黙の中、エホンとわざとらしい咳払いをしながら近寄ったザックスは、半泣きのルーファウスの肩を叩いた。
「あ〜、そんなに失望しなさんなって。ダンナ、結構、戸惑ってるだけだから、こっちが押しちゃえぱ結構簡単にモノにできちゃうかもよ?」
「そ……そうかな?」
 わずかに自信を取り戻したルーファウスの肩を抱きながら、ザックスは内緒話をするかのようにこそこそと知恵をつけ始める。
「だいじょーぶだって! 旦那と相棒組んでるオレが保証するって♪」
「「ザァーッッックス!」」
 頭を抱えたヴィンセントとツォンを他所に、その夜ザックスとルーファウスはセフィロスらぶらぶ攻略法に燃えていた。

「あ〜あ〜、今日もいい天気だな、と」
 レノが起きだしたのは、まだ夜も明けやらぬうちだった。昨日は朝からセフィロス捜索に駆り出され、戻ってきたと思ったら今度はルーファウスの警護でまたこの館にいる。
 いっそ、ココに住みこんだ方が早いんじゃないかと思いながら、レノはあてがわれた部屋を出た。
「そういや、ヴィンセントが手伝ってくれっていってたっけな、と」
 頭をぽりぽりとかきながら厨房に入ると、そこは女たちがはやくも忙しく朝餉の支度をしていた。
 中央で指揮をとっていたヴィンセントが気配に振り返ると、「おはよう」、と微笑むとさっそく籠いっぱいの野菜を放り投げてよこした。まったく、あの細身のどこにそんな力があるのか、神羅の7不思議の一つである。
「早速ですまないが、皮剥いといてくれないか。今日は客が多いらしいからね」
「それはいいが、あんたもやるんだろうな、と」
 眩暈がしそうな分量にレノが恨めしそうな視線を投げると,ヴィンセントは座っていた椅子の陰からレノの倍はある野菜籠を蹴りだして見せた。
「……へいへい」
 ずりずりと厨房の裏手へ引きずっていって、ナイフ片手に器用に始める。数個のイモを剥き終わって、次のをとろうと手を伸ばしたところで、突然その手からイモが奪い取られた。
「おおっと、そいつは俺が剥くんだぞ、と」
 目の前にいたのは、神羅の重役のリーブだった。いい歳な癖にアヤシイ関西弁を喋ることもあって、なんとなく【可愛い】という表現を当てはめたくなる彼は、かつてヴィンセントと同期だったということもあり、用もないのによくこの館を訪れる。
 先ごろ、あやしい着ぐるみ人形でスラムをのし歩いていたという噂もあるが真実は定かではない。
 いつのまにか、レノの正面に自分の椅子を持ち込んで一緒になってイモ剥き大会が始まる。
「レノはん、こないなところで皮剥きなんてやらんでも、一言言うてくれはったら幾らでも手伝いますんに〜」
「あんた、仕事はどうしたんだ?と」
「いややわ〜、副社長の決済がないと何も出来まへんよってに、今日は出待ちしにきたんですわ〜。
したら、ヴィンセントはんに捕まって。ま、ついでに、レノはんの顔も見たかったさかい」
「……」
 リーブはにこにこしながら、さっさとイモを片付けていく。水が流れるようにしゃべり倒すリーブに口をはさむ余地もなく、レノが皮を剥いていると、不意ににこにこをパワーアップさせてリーブが突如レノの手を取った。
「レノはんも恥ずかしがりやさんやなぁ。こうやってレノはんの仕事手伝っとるんもすべては二人の愛を育てるためでっせ?
なのに、いつも上の空でいはるんです?」
「……最近良く夢を見るんだな、と」
 と、レノは剥く手を止めてため息をついた。視線を虚空にさまよわせて、ここのところの想いをレノはそっと口にした。
「何かをもった愛の神様が見えるのに、顔が良く見えないんだな、と」
「ソレは間違いなくこのリーブでっせ?」
「……いや、それは違うんだな、と。もっと背も高いし体格もいいんだな、と」
 即座に否定されたリーブは一瞬悔しそうな表情を浮かべたが、かまわずしつこく食い下がる。
「それはワイの作り出したケット・シー1号君ちゃいますの? レノはんのこと思うてるワイの分身が見えてたんと?」
「かもしれないな、と。確かにハゲてたし……」
 ケット・シー……ハゲてたか? というよりあれは毛皮でわ……?
 二人の愛は前途多難であった。

「おはよーっっす♪」
 その頃、ゴタゴタが起きる前に抜け出そうと館を出たセフィロスは、門の前で待ち構えていたザックスを見て、嫌そうな顔をした。
「そんな顔したってダメだよん? アンタの考えてることぐらい、俺にだってお見通しなんだからさ」
 そうでなきゃ、今まで相棒なんか組めっこなかったでしょうが。
「たまには当たる事もあるな。確かに」
 苦笑しながら、正宗を担いだ花婿候補はすたすたとゲートの方へ歩き始めた。
「偶には? いつだって当たってるんじゃないのよぉ。それもこれも旦那のこと愛してるからv」
 どこまでもおふざけの抜けないザックスはすぐにセフィロスに追いつくと、肩を並べながらも様子をうかがった。
「旦那もさァ、若奥様のどこが気に入らないわけよ?」
「若奥様?」
「ルー坊ちゃんのことだよ。あんたに惚れてるし、地位も金も持ってるし、申し分ないじゃないか♪」
「じゃあ、お前が面倒見てやったらどうだ?」
 セフィロスの返事はにべもない。
「ご冗談、どんな美人ちゃんだって、俺は胸のある女の子の方がいいって決まってる」
「なら、私にも押し付けるな。いくら可愛くても、アレはごめんだ」
「ん〜、幾ら条件整ってて将来有望でも、もれなくツォンみたいな小姑も付いてくるしな〜」
 確かにソレは減点対象かも。思わず、顎に手をあとと考え込むザックスをおいて、セフィロスはあっさりとゲートの入り口に足を踏み入れた。
「すわぁて、旦那、どこらへんまでいくつもり?」
「さあ。とりあえず、ルーファウスとのほとぼりが冷めるまでだな」
「へいへい。お供しますよ♪
 んじゃ、カーム辺りでしばらく羽でも伸ばす? こないだ拾ったチラシでは、なんかイベントあるらしいぜ」
「お前にしては名案じゃないか?」
 そして、二人は運命への出逢いへと足を踏み出した。

 その日、カームの街はお祭り騒ぎの真っ最中だった。
 街のいたるところに花が飾られ、楽しい音楽が流れ、いつにない人出でたいそうな賑わいをみせている。
 世界中にいまやその顔が知られているセフィロスと、つるんでよくカームに立ち寄る若きソルジャー。二人の取り合わせも、既にカームの町では馴染みなものになっていたので、陽気な人々に歓迎を受けて、二人は街中へと足を踏み入れた。
 道の両端に出た出店には、様様な品物が並んで、通行人を楽しませている。日頃、あちこちへ任務に派遣されるソルジャーにとってはさほど珍しいものでもなかったが,それでもザックスがアヤしい雑貨屋を冷やかして回ったり、思わぬところでセフィロスが露天の女たちに捕まったりと、イベントの目玉である旅劇団の演目に滑り込む頃には、すでに夜になっていた。
 どうやら出し物は昔の王国時代の恋物語だったらしい。
 真中あたりに席を占め上演の時間になる頃には、途中で買った酒も回って、ザックスは半分舟をこぎ始めていた。
 セフィロスはといえば、あまりこういうものを見る機会もなかったのだろう。正宗を肩に立てかけ、興味深げに舞台を眺めている。
 そうこうしているうちに、賑やかな笛の音と共に、舞台の幕が開いた。ヅラっぽい長髪男が王様役のようだ。まったく威厳のなさそうな様子から芝居の中身を連想される。
「アレが主役かよ?」
「らしいねぇ」
 ザックスが眠い目を擦りながら地元のおっさんとこそこそと脇で内緒話をしているうちに、ぎこちない動きで芝居が始まった。
王様  『大臣よ! このまだこのガルバディア王の花嫁は見つからぬか。
     情けない! 嘆かわしい!』
家来1『殿のような美男子にあう……』
王様 『よく聞こえんぞ、もう一度申せ』
家来1『ふさわしい娘はこの王国には見当たりません』
 学校のお遊戯会並みのつまらなさに、思わずザックスが本格的に寝に入ってしまったが、セフィロスは面白そうに舞台から目を離さない。
王様 『セリスなる踊り子がおるとか、見てきたか?』
家来2『いかにも。ティナなる踊り子もおりました。でも、麗しき殿には釣り合いません』
王様 『ならば誰とも結婚は無理か』
 へたれなりにも場内はバカ受けし、ザックスはつられて乾いた笑いをこぼすとまた、眠りのふちに引きずられていった。
家来1『殿と釣り合う姫が一人おります』
王様 『誰じゃ?』
家来1『エスタ国の王女、スコール姫でございます』
王様 『左様か。そのスコール姫ならば麗しき余にふさわしいのだな』
 気取った様子で王様が進み出たところで、舞台上で居眠りをしていた護衛役がパタンと槍を取り落とし、慌てて拾い上げる。実に緊張感のない芝居だが、この劇団にとってはいつものことなのだろう。王様一人が足の上に落とされそうになってびくっとした以外は、誰一人うろたえることなく、芝居は進んでいく。
 ひょっこひょっこと怪しげな足取りで、王様と家来たちが舞台を動き回っている。
家来1『姫の歩く姿はまるで白鳥のよう』
家来2『唇は形よくセクシーで』
家来1『顔は蓮の花のよう』
家来2『体は蜜の味』
家来1『年はまだ18歳』
家来2『花も蕾です』
王様 『ならばその姫に会わねば』
家来1&2『会わねばならぬぅ〜』
 幕が下り、テケテンテンテンとアヤしい旋律にあわせて、ステップを踏んでせいた俳優たちが下がっていく。
「それなりに面白いものだな」
「旦那、あんたよっぽどつまんないのしか観たことなかったでしょ」
 かなりゴキゲンのセフィロスに、半分寝被っていたザックスはようよう眠たい目を擦って生返事を返す。ミッドガルとは違って娯楽の少ないカームだけに周りはすっかり盛り上がり、中には間をとりもつ鉦や太鼓の音にあわせて踊り出しているものもいる。
「あんなのまだまだ。俺が今度、もっと面白いところつれてってやるよ」
「ほぅ、それは期待していていいのか?」
「かましてな」
 などと言っているうちに、次の幕が開いた。


 ひときわ派手な旋律が流れる。貧乏劇団の割には豪奢な七色の幕を使い、スモークが観客席に流れようとする勢いなのにまた歓声が上がる。
 ふわりふわりと鮮やかな7色の幕が開く。進み出てきたのは小柄ながらも目を見張る美女。艶やかな衣装に身を包み、豪奢な珠飾りが髪を腕を足を飾る。ゆっくりと足を進めるたびに、アンクレットの鈴が澄んだ音を立てている。
 コレが今回の主役、スコール姫なのは間違いない。
 アイシャドウで強調された大きな蒼の瞳が観客の視線を捕らえると、口の端がゆっくりと笑みをこぼした。
 場違いなまでの美女に観客は一瞬沈黙に包まれた後、どよめいた。

「……スゴイな……」
 美人度なら負けていないセフィロスが感心したように呟くと、ザックスも一気に眠気を吹き飛ばされたかのように身を乗り出した。
「ん〜、マジですっごいカワイコちゃんだよな。俺、後でお茶にさそっちゃおうかな〜」
「……どんなに美人でも胸のある女の方が良かったんじゃなかったのか」
「おっさん、どういう意味だよ」
「よく見てみろ。アレは男だ」
「…………嘘だろ?」
「喉仏が出てるだろうが。だいたい、骨格が女のもんじゃないしな。それに……」
 信じがたい様子でしげしげと見つめるザックスに、セフィロスはいちいち並べ立てる。
 もはや目を丸くしたまま女装美人を見つめていたザックスは、芝居の最中であるのも忘れて、でかい声で叫んだ。
「詐欺だー――――っッッ!」

 一瞬、間近で叫ばれてびっくりしたクラウドはきっと発生源を睨みつけた。
 自分だって、だいたい女装なんてしたくないのだ。新しい上演先に行くたびに、珍獣扱いされるのは真っ平だ。だいたい、女優だってここにはいるのになんだって自分がヒロイン役なのだ!?
 思わず顔が強張るのを脇からエアリスが突っついた。
「ホラ、クラウド! セリフセリフ! 忘れたの?」
 不快感を押し隠して、クラウドは舞台の中心に立つと長い裾をさっと捌いて、嫣然とポーズをとる。すかさず、侍女役のエアリスが傍についた。
「クラウド、お客さんの前よ。笑顔笑顔v」
「わかってるよ」
 クラウドはまだ声変わりの終わってない声でぼそりと返すと、相手役に軽く合図を送る。
兵士1   『姫様、ガルバディア王が縁組をと』
スコール姫『お通しして』
兵士1   『はい、承知いたしました』
侍女    『姫様がこられました』

 体をくねらせながらアヤしい秋波を送る王様役に、クラウドは演技抜きにぶるりと身震いすると、高飛車に切り捨てた。
スコール姫『情けない! 汚らわしい! 恥知らず!』
王様    『余のセリフだぞ』
家来1   『繰り返せばよろしいのです』
スコール姫『美しき姫、見事な体、そう言われた私の相手がこの男?
        墓場から蘇った死体が私の婿?』
「ちょっと、クラウド。死体なんてセリフあった?」
 つんつんと袖を引っ張るエアリスにクラウドはささやき返した。
「あいつ、幕前にも俺にセクハラしたんだ。これくらいやってもいいだろ?」
「芝居の本筋外れなきゃおっけーよ♪」
 にこやかな返事に、演技に名を借りてとどめの口撃をしようと口を開いたとき、
「ふぇ、ふぇーっっっくしょいっっっ!」
 先程の発生源からまたもや盛大なくしゃみが起こった。
「…………」
 青い瞳に一瞬怒気が閃く。いいところで邪魔してくれたのにとセフィロスも冷たい視線を浴びせた。
「ザックス、くしゃみなら他でやれ。迷惑だぞ」
「ごめん、ごめんって。きっとミッドガルの女の子たちが俺の噂話でもしてるんだぜ」
「ほざいてろ」
 フン!と気を取り直して、クラウドは相手役にその指を突きつける。
スコール姫『私のウィンク一つで諸国の王が国を忘れる。
        その王たちも私に求婚しているというのに、このオカマの馬面男……』
「ふぁっ、ふぇっくしょぃっっっ!」
 ピキリとクラウドのこめかみに青筋が走った。幸い、髪飾りとベールに隠されていたが、間近にいたエアリスはしっかり見つけていた。ギリギリと歯を噛み締める音までするにいたって、侍女役としてなんとかフォローをいれたいところだ。
「落ち着いて、クラウド! 今はお芝居に集中して頂戴」
「……」
 一方、観客席側でも、度重なる邪魔にウンザリした様子のセフィロスの拳がザックスの後頭部にヒットしていた。
「ザックス、いいかげんにしろ」
「いや、旦那……そうはいってもさぁ。う〜、俺、風邪引いちまったかもしれないな」
「馬鹿も休み休み言え。お前みたいな筋肉ダルマが風邪なんぞ引くはずないだろう」
「あっ、冷てェ! それが仮にも相棒に言うセリフかよ?」
スコール姫『お前のような腰抜けには、世界中探しても嫁は見つかるまい。
       誰がお前の嫁なんか』
「ぶぇーっっくしょぃっっっっ」
 ついにここにきて、クラウドの短い忍耐線がプチリと切れた。
『ちょっと、そこのアンタ!』
 完全に芝居をやめると、麗しのスコール姫はご丁寧に中指をおったてて、ザックスに喧嘩を売り始めた。
『あんただよ、あんた! くしゃみばっかりして、なんで邪魔すんだよっ!』
「ちょっと、クラウド、やめなさいよ」
『さっきから見てればバカにして! あんた一体何様のつもりなんだ!?』
 怒り狂うクラウドをエアリスは必死でなだめるが、すでに聞く耳など持ってはいなかった。
 一方、ザックスは頬をぽりぽりとかきながらも、この事態を楽しんでいた。
「ちょっと待ちなよ。カームじゃくしゃみは犯罪なのか?」
 くすりと笑ってセフィロスが「違うだろう」と返すと、ザックスはクラウドに肩をすくめて見せた。
『別に罪じゃないよ。だけど、人が集中して芝居してるのに迷惑じゃないか』
「わりぃけど、クシャミに咳、しゃっくりに欠伸、善悪に食欲に眠気に生死に金、賞に名誉は人が望んでも手には入んないんだぜ?
 出物腫れ物ところ嫌わずってね」
  一気にまくし立てたザックスがちょっとそっくり返ると、周囲の人々はやんやの喝采を浴びせた。
「をを! なんかカッコエエなぁ」
「なんだか、芝居みたいだねェ」
 ぽっと頬を染める町屋のおかみさんたちを舞台から見下ろして、クラウドはいよいよエキサイトした。
『客席では言えても、舞台じゃ縮み上がるくせに何言ってんだよ』
『クラウド! 相手は神羅のソルジャーさんなのよ、頭冷やしなさいったら』
『エアリスは黙ってろよ!』
 対応に困ったザックスが視線をさまよわせるのを見て、セフィロスがどかっとザックスを蹴りだした。
「……っ! ちょ、旦那!」
「ソルジャーたるもの、ビビってどうする。落とし前をつけてきたらどうだ?」
「あんた……面白がってるだろ」
「何が悪い?」
 あっそり肯定されて、ザックスはうぉ〜とうめいて頭を掻き毟った。
「そうそう、ソルジャーが敵前逃亡ってのはよくねぇんじゃ?」
「ほれほれ、かっこいいトコ見せておくれよ、ザックスの旦那v」
「よせよ、ちょっと待てったら」
『勇気があるんなら、舞台に上がってみせればいいんじゃないか。歌って踊って見せてくれよ!』
 煽り立てるように指を鳴らして挑発するクラウドに、ザックスは「んじゃ、やってみっか」とひょいひょいと舞台に飛び乗った。

 両腕を腰に当てて、さあ見ててやるぞといわんばかりのクラウドの前でザックスは舞台上でいささか咳払いなんぞかましてから、流れるように身振りをつけて喋り始めた。

『ちょっと待ちな、スコール姫さん。あんたは王様を傷つけた。男は顔じゃないんだぜ? 心だ。人を傷つけるのはやめて、同じことを話すにも微笑んで話せば、魅力も百倍増しって奴さ。高慢ちきもほどほどにしてな』
 場内から拍手が沸きあがり、ザックスはまあまあと手で抑えて、どうだといわんばかりにそっくり返った。
『拍手が何だよ』
『ないと寂しいじゃねぇか』
『芝居を見にきたんじゃなくて、邪魔が目的なのかい、あんた?』
『とんでもない。っていうかさ〜、いいかげんに機嫌直したらどうだい』
 実際に向き合うと、実はかなり小柄な事がわかる。化粧を落としてもかなりの高レベルだ。そんな美少年に上目遣いに睨まれて、ザックスは「おお、やっぱ男でも上物じゃん」などと不遜な感想を心のうちで述べていた。
『やな奴っ!』
『俺がかい?』
『じゃ、オレなの?』
『いや、そうじゃないけどさ』
 永遠に続きそうな言葉遊びにはやくも飽きて、舞台から降りようとするザックスに、王様が慌てて舞台裏に駆け込んだ。戻ってきた手には大きな花輪がある。
「クラウド、もりあげてくれたんだ。これを首にかけて差し上げるんだよ」
「ふんっッ!」
「ク・ラ・ウ・ドっっ!」
 クラウドはろくにそっぽを向くと、ろくにねらいも定めずに花輪を投げ捨て、ダンダンと床を踏みぬかん勢いで袖に入っていった。
 そう、彼は見ていなかった。
 思いのほか強い力で投げ飛ばされた花輪は席に戻ろうとするザックスの頭上を通り過ぎ、ちょうど立ち上がろうとしていたセフィロスの正宗に実にいい感じで引っかかったのを。
 そして、あのセフィロスが面白そうに笑みを浮かべたことを。

 そして、これが全ての始まりだったのを、このとき誰も気が付かなかった。


さて、半年振りに(笑)更新です。まずは、ルーファウス、クラウド、エアリスが登場です。
って、このルーファウス。、なんか別人……それを言うなら全員そうか!(笑) FF7クリアしてから結構時間たってるもんなァ……。
芝居のトコは地名と人名はFF6、8から引っ張ってきましたが、他は皆元ネタぱくってます。ぜひ、映画見て笑ってください。
さて、いろんなカップリングが同時並行で動いてます。いったいいくつあるんでしょう……。
誰か教えてくらさいな。
とーりーあーえーずー、1月中に3わUPしたいと……ごふごあっ。