File 01-01 絵本区域の暇人たち


すべてはココから始まった。
そういってもまったく問題はなかったように思う。

さて、管理人の高校生活ライフの始まりは、図書館でのオリエンテーションから幕を開けた。

当時の図書館は変わったつくりになっていて、校舎本館に引っ付いて建つ別館のようになっていた。

渡り廊下をほてほて歩くと、真正面にL字型のカウンター。そして、中央に閲覧用の長机がずらぁりと並び、それを取り囲むような凹型に書棚が並んでいた。

その書棚の始まり、カウンターの右手正面にあるのが、謎の絵本区域である。

高校図書館にあるまじき、絵本・児童用書物が並び、ナニユエかその区間に関してのみ絨毯(むしろ、カーペット)が敷かれているもっとも理不尽な空間である。

その空間を主に占めていたのが当校物理部のおにーさん(先輩)ズである。

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突然だが、第2高校の図書館は広かった。
県下有数のマンモス校なだけに、蔵書量もハンパではなかった。
 最初のオリエンテーションで図書館にきたとき、内心「よっしゃ」と快哉をあげたものである。
初めて、本を借りに足を踏み入れたとき、司書のM岡先生に管理人は聞いた。

「何冊まで借りていいんでしょう?」
「読みきれるだけ、何冊でもかまわないわよ」
 (……にやり)

 それが、店主の3年間にわたる図書館生活の幕開けであり、後々M岡先生に頭を抱えさせることになるすべての始まりだった。

 当然というかなんというか。自分のテリトリー圏内にてデキのいい生徒は可愛いものである。
 したがって、管理人と司書教諭たるM岡先生との仲は急速接近していた。
 「ちょっといい?」
 1週間後すでに山のように本を借りまくってた店主はM岡先生に呼ばれて、とことこと歩み寄った。
 「なんでしょお」
 「あなたと同じくらい本を読む子がいるのよ。同じ1年だし、話も合うと思うわ」
 「はぁ」
 ……そして引き合わされたのがG藤氏。翌年、脳腫瘍であっけなく世を去った相棒を横に、管理人と同じ位ソノラマ文庫とハヤカワを側に積み上げての出会いだった。

 そして、第一印象が……おっさんくさいぞ、こいつ。
 

 高校1年というのに、白髪交じりの頭。みょーに老成しきった落ち着き。
 そしてその容貌はといわれると、果てしなく小林稔次だった
 
 一方、彼の相棒はとてつもなく童顔だった。そう、敢えて言うならジャニーズ系。

 しかも、後から気がついたのだが、この二人。いつも行動をともにしている。
 まるで、若当主と執事のように。あるいはホモカップルのように(爆)
 なんて、組み合わせ。こんなんそこらの小説のネタにできそうなもんである。
 
 しかも管理人はひっじょーに人の顔を覚えるのが苦手だった。
 なにぷん、3年間同じクラスだった男子生徒の顔と名前が一致しなかったくらいである。
(正確には名前も覚え間違っていた)
 にもかかわらず、管理人は即座に判別モードに移行した。
 
 人物登録 生息場所:図書館および新聞閲覧室近辺
        名称:「おっさん」&「少年」

 
 今考えると、「何だかなー」という感じだが。
 結局、それまで面識はなかったものの同じ中学出身であることが発覚。その上、読書傾向が非常に近いことがわかり、我々はわずか数分後に意気投合した。
 
 
 図書館蟲の増殖である。
 
 翌日、鬼のような貸し出しを返却するためカウンターの列に並ぼうとしたときのことである。
  
 カウンターの脇のほうに、3年男子が3人ほど固まっていた。
 場所はそう、謎の絵本区域である。
 この区域、常に3年男子の溜まり場である。
 したがって、新入生の立場としては、あんまし寄りたくないというか、なんというか。
 図書委員ではないらしく、カウンター業務を無視し、ひたすらだべっている。
 返却し終わり、さて次はグインサーガかペリーローダンかと物色していたそのときである。
 ひょっこりとまた、M岡先生が姿を見せた。
 「あら、U島くんたち、いいところにいるわね。今年の新入生は読書好きな子が多いのよ。
 あ、二人ともいらっしゃい」
 またもやお呼びが掛かり、管理人と「おっさん」はほてほてとカウンターの前に立った。
 無論、物色済みの本の山を抱えて。
「よう、お嬢ちゃんたち」
 それが第一声だった。
 今考えると、良くあそこで噴出さなかったものである。しかし、当時管理人は「アンジェリーク」等知る由もなく、それが図書館の主、当校物理部のおにーさん(先輩)ズ「スポック兄ちゃん、まさみちゃん、K場兄ちゃん」との出会いだった。
 
本好き? 楽しい? どんなジャンルが好き?
 そんなありきたりの会話がしばらく続いたところで、管理人は気になるところがあった。

いや、しかし、初対面の(しかも先輩)人にこいつはマズいだろう。
しかし、気になる。
  えっと・・・・
    うー・・・・・・

 数秒間悩みぬいた末、管理人は口に出してみた。

 「U島先輩って、Mr.スポックに似てるって言われたことありません?」
 
 注)Mr.スポック
     有名海外SFドラマ【宇宙大作戦】こと「スタートレック」の第1シリーズに登場する
     エンタープライズ号副長。科学士官で、感情が極端に抑制されたバルカン人と地球
     人のハーフ。とがった耳とカッパもどきヘアーが特徴的。 


 一瞬の沈黙の後、爆笑。

 スポック兄ちゃんの誕生である。
 うっしーU島兄ちゃんはこのあだ名が結構お気に召したらしい。
「オレがスポックなら、マミはなんなんだ?」
 スポック兄ちゃんが振り向いた先にはY田氏。
 恰幅のよく笑顔の絶えない布袋様のような方だった。マミというのは彼のことらしい。
「マミってどこからきてるんですか?」
「名前が真実っていうんだよ〜」と笑いながらマミちゃんはのたまった。
「だから、《まさみ》って呼んでくれよな」
「だから呼んでるじゃないか、《マミ》。ああ、お嬢ちゃんたち、マミっていうのは《クリィーミーマミ》との引っかけでもあるのさ」
「だから、俺の名前は《まさみ》だっつーとろーがっっ」
 まさみちゃんを無視し、スポック兄ちゃんは答えた。

そう。彼らは雑学帝王。守備範囲の広いオタクだった。
 


 そしてダレよりも気になったのは、異様なロン毛の3人目。K場氏である。
 お兄さん方はかなりの長身(180〜185はあったと思う)だったが、中でもこのK場の兄ちゃんは、髪はひところのキムタクのような長髪(しかもサラサラ)に、ニキビだらけのお肌という素晴らしい取り柄の方だった。

 未だに何故彼がこの二人とつるんでいたのか、良く分からない。

 カウンター越しに話しているうちに、意気投合し、管理人の呼び名は「お嬢ちゃん」に決定し、おっさんは「おっさん」、少年は「少年」と呼び名が付けられた。

その場で、管理人は3人の兄ちゃんズを師匠とあがめることにした。
なんといっても退屈しなそうだったし。


 そうこうしてるうちに、やがて、声を潜めてスポック兄ちゃんがのたまった。
「第2高校には面白い本好きがいてねー。もうじき来るからさー」
 横で笑いながら聞いていたM岡先生もぽんと手を打った。

「ああ、日野さんね。彼女スゴイのよ―」

 我々の一体ナニが凄かったかは、おいおい話す機会もあるだろうので割愛しておく。
 実際、日野氏に会ったのは、なんだかんだでこの1週間後の話だった。
 そのときもやっぱり似たよーな経緯だったと記憶している。

これが、第2高校における図書館黄金世代(自分でいうか)、《図書館たむろ族》結成の秘話である。
 
しかし、何分10年前の話である。結構あやふやなので、後で細かいことを突っ込まないよーに。
結局、私らを結びつけたのは、司書のM岡先生に100%責任があったということだけは確かである。

うん。

それでは、我々の過去における出来事を楽しんでいただきたい。