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マ グ ネ シ ウ ム
「なんや最近、胃の調子が変なんや」
そうウルフウッドが言ったのは夕餉を囲んだ食堂でのことだった。
「しくしく〜ときおってなぁ、これもワイの繊細な神経が日々逆撫でされおるからや」
「よく言うよ。このエロ牧師が」
 ぼそっと呟いたヴァッシュを耳聡く聞きつけ、ああ?と牧師はわざとらしく聞き返した。
「聞こえんやったけど、何ぞ言うたか? トンガリ」

「さぁね〜、空耳じゃないのぉ?」
 これもわざとらしく交わして、皿を突っつく。
「逆撫でってなんでですかぁ?」と能天気にミリィが尋ねた。脇でメリルがくいくいと服を引っ張っている。
「およしなさい、ミリィ。牧師さんの煩悩を聞かされるだけでしてよ」
「煩悩って君たち……」
 おいおい、と手を振るヴァッシュに構わずメリルが続けた。
「この牧師さんときたら、寝ても覚めてもヴァッシュさんのことばかりなんですから」
「そっかー。たしかにそーですよねー」
「………………あのね」
「そや! そーなんやっ!」
 ガタガタッ!
「えっ、ええっ、わたっ」
「な、なんですのっ!?」
 唐突にフォークを握ったまま立ち上がったウルフウッドに、聞こえよがしにこそこそ喋っていた二人はびくりと動きを止めた。
「保険屋のねぇちゃんたちかて、ワイがトンガリほしー思てんのは知っとるやろ!? ワイかて、ねーちゃんたちもおることやから、必死こいて辛抱しとんのに、こいつは!」
 とヴァッシュを握ったフォークの先でビシィと示した。
「ワイの目ン前、上半身ハダカで歩きまわっとるんやで!」
「それは……お気の毒ですわねえ」
 嘆息したメリルの前、頭に血が上ったヴァッシュも負けじと応戦する。
「自分の部屋歩き回って何が悪いんだよ。君こそ、部屋に入るときはノックぐらいしたらどうなんだいっ!?」
「なんや、ワレ! 自分のこと棚に上げてようそんな発言できるモンや。そんなら、今度からは辛抱せんといったるわ」
「公衆の面前で何言ってるんだ、このっ色ボケ牧師っ!」
 周囲の人々省みず、暴走を続ける色呆けコンビに周囲の客は目を点にしている。なおもエスカレートする騒ぎにメリルが空を仰いでいると、不意にミリィがぽんと手を打った。
「どうしたんですの、ミリィ?」
「あ、先輩。よく考えたら,私よく効く胃薬持ってるんですよぅv ウルフウッドさんにも分けてあげますぅ」
 ごそごそとミリィがコートの下のポーチを探り出すと、見る間に卓上にはカプセルの山が積みあがった。
「私、結構お薬とか飲んでて胃やられちゃうんですけどぉ」とミリィはにこにこしながら白いカプセルを山の中から摘み出した。
「これがいっちばんよく効くんですぅ」
 何時の間にか口喧嘩は終わっていたらしい。ぬっと寄ってきたウルフウッドはミリィの手から摘み上げるとしげしげと眺めた。
「どこが違うんや?」
「えーっとですね、マグなんちゃらっていうのがあんまり入ってないそうなんですよぅ」
「……マグネシウムですの? ミリィ」
「そう、それですv そうなんです、先輩」
「そうそう。マグネシウムって取りすぎると体に悪いんだよ、ウルフウッド」
「なんや、トンガリまで」
「確かねぇ、摂取しすぎると、アルツハイマーの発病可能性が高くなるんだって」
「アルツハイマーって、ヴァッシュさん、呆けですよねェ」
「うん、そう」
「ふ〜ん、そないなもんとは、ちっとも知らんかったで」
 感心して白いカプセルを試すがめす眺めていたウルフウッドは、ぽいと口の中に放り込んだ。
「ほな、おおきに」と、水をがーっと流し込んで眉をしかめる。
「効くと良いですねェ」
「ほんまにな」
「でね、ウルフウッド」
 とヴァッシュが一人でウンチクを傾けている。あーだこーだと述べているのを聞き流していると、不意に最後の一言が三人の耳に飛びこんできた。
「で、経験からいってもマグネシウムの取りすぎは悪阻にも悪いんだよ」

…………つわり?」

「……どーゆー経験なんや……」
「聞きたいような聞きたくないよーな話ですわね」
「でも、気になりますよ!」
 この謎がメリルの報告書に追記されたことは言うまでもない。

真人:会社での実話。ヴァッシュ/役員(♂) ウルフウッド/営業(♂) ミリメリ/宰相と同僚(♀)で置き換えて見ました。ちなみに全員20代。……本当になんの経験なんだろう?