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飾り牧師の来襲飾り
「トンガリぃ、まだ酒残ってるやないか」
「……もぉ駄目だよ、ウルフウッド。君、お酒強すぎぃ」
「なーに言うとるんや。まだまだこれからやで」
「えー、まだ飲むのかい?」
 夜も更けて。
 旅を共にするうちに何時しか酒を酌み交わすようになった二人は今日もヴァッシュの部屋で飲んだくれていた。
「保険屋のおねーちゃんたちもとっくに帰ってしもうたし、一人酒やなんて悲しすぎるやないか。それともナニか? ワイの酒には付き合えんっちゅうんか」
「そんなこと言ってないけどさぁ」
 やれやれとため息ついて、ヴァッシュはグラスを傾けた。
 床のあちこちに転がった酒瓶がぼやけ始めた視界の隅に飛び込んでくる。
 何時になくピッチの早いウルフウッドにつられて飲んでしまったせいか、今夜はどうも自分の限界を軽くオーバーしてしまったらしい。
「…………眠……」
 向かいでウルフウッドが見えない観客に説教しているのをBGMにして、ヴァッシュはゆっくりと目を閉じた。

「おーい、トンガリ。寝てしもうたんか?」
 牧師はいつのまにか静かになった室内に気づき、旅の相方を振り返る。
 ヴァッシュは最後のグラスを残して、テーブルの上に突っ伏してすやすやと穏やかな寝息を立てていた。
「……ったく、人間台風とまで言われた男には見えへんな」
 そこらに転がった空き瓶を足で壁の隅まで蹴り転がすと、その思ったより薄い肩に手をかけた。
 口の端にくわえていた煙草をきゅっと押しつぶし、
「そないなとこで寝よったら風邪ひくで」
そっと肩をつつく。
 うーんといいながら、ヴァッシュが身じろぐ。その拍子に、整えられている金髪とコートの襟に隠されていた白い項が不意にウルフウッドの視界に飛び込んだ。
 くらり。
 一瞬、めまいを起こすような激しい動悸。
  ……あかん。ワイも飲みすぎたか? 男相手にくらりときてどうするんや。
 頭をふってアヤシイ考えを振り払うと、ウルフウッドは拳を固めて金色の後頭部に一発お見舞いした。
「…痛……なに?」
 わずかに、身じろいでヴァッシュがその顔をゆっくりと上げた。まだ寝呆けているのか、焦点の合わない瞳でぼんやりと見上げる。
「しょーのないやっちゃやな。寝るんやったらベッドまで行ってからにせぇ」
 無意識にふわり、と微笑っておとなしくヴァッシュは立ち上がろうとした。
「おっと、大丈夫か?」
 足元がおぼつかないヴァッシュに肩を貸して、ベッドルームまで引きずっていく。
「…ねえ、ウルフウッド……」
「なんや、トンガリ」
 どさりと落とされたベッドに転がり、身体を伸ばす。背を向けて横たわったまま、ヴァッシュはむにゃむにゃと言葉を継いだ。
「僕さぁ……きみのこと結構好きだよ」
「はいはい。分かったからはよ寝てくれ」
 小さく欠伸をこぼしたその姿にまたなにか胸が騒ぐ。
「ホントだって」
「…………オンドレ、自分がなに言うとるかわかっとるんか」
 くすくすと笑って、寝返りを打つ。綺麗な瞳がまっすぐにウルフウッドを捉えている。
 胸の動悸は納まらない。
「だってさー、好きナンだから、しょうがないじゃないかぁ」
 不意にさっきの白い項が脳裏に甦り、顔が知らず知らず熱くなる。
  …………あかん。聞くんやない! 
  どんなに顔が良かろうと、相手は男や! 酔っ払いの言うとることや。聞き流すんや、ウルフウッド!
「飲み過ぎやで、ヴァッシュ。ええから布団かぶって、さっさと寝てまえ」
「あ、聞いてないだろ、君」
「ちゃんと聞いとるがな」
 足元の布団を引っ張り上げてやると、ヴァッシュはまぶたを閉じてむにゃむにゃと眠りの淵に沈みこんだ。
   …………アホウが。人を動揺させよってからに。
 酒瓶を片付けようと背を向けたところで、何の気なしにウルフウッドは背後を振り返った。何の変哲もないその姿が目に入った瞬間に、収まったかに思えた動悸はまたもや心臓を圧迫し始めた。
  あかん。やっぱ、ワイはもう駄目や。こんな下僕をもって、神様かんにんやで。
 あっさり衝動に負けて、ウルフウッドはヴァッシュの穏やかな寝顔の両脇に手をついた。
「……あないなこと言うんやったら、別にかまへんやろ…」
 そのままゆっくりと唇を合わせる。
「…にゅ・・・・・・!!」
 眠りの海をぷかぷかと漂っていた人間台風は、不意に差し込まれた口中の異物感にはっと目を見開いた。
 目の前には自分に覆い被さる不良牧師の笑顔が広がっていた。なんだかイヤな予感に、酔いも眠気も一気に吹っ飛ぶ。
「君、何やってんだよウルフウッド!」
 ようやく唇が離れたところで、ヴァッシュは猛然と噛みついた。
「きたないやっちゃなー。ツバとばすなや」
「そーゆー問題じゃないッ。さっさと降りろよッ」
「ええやん。ワイが好きやって、ようはこーゆーこっちゃろうが」
 にへら、と笑ってウルフウッドは口付けを積極的に首筋の方まで落とし始めた。
「……っ! そーじゃないったら!」
「誘っといて今更何言うてんねん」
 がっちりヴァッシュの両手を左手一本でとりあげたまま、ウルフウッドはヴァッシュの上で胸に手をやる。
「ワイかて、男相手にこんなアホな真似、ちっとばかり理性が邪魔しとるねん」
「だったら、止めようよ。いまからでも遅くないと思うけど?」
「せやかて、なんかもうしょーがないねん。ワイも男相手は経験あらへんが、コレも神の思し召しや-思うてな」
「何だよ、それー! 君勝手……っ」
 飛び出しかけた言葉は、再び重なった唇に飲み込まれた。
 押しのけようにも、覆い被さった身体はヴァッシュの動きを完全に封じ込めている。呼吸すらままならない状態の中、ヴァッシュはウルフウッドを引き離そうともがきつづける。
「っ、このエロ牧師っ! 僕が好きって言ったのはホラ、やっぱり人間として……って、どこ触ってんだい!?」
 ようやく呼吸を取り戻したのもつかのま、今度はあらぬところに伸びてきた手をよけようと身体を竦ませる。
 赤いコートの下に忍んだ指先の動き一つ一つにぴくりと反応を返してくる。その震える肌にくすくす笑いながら、ウルフウッドは容赦なく手を進めた。
「往生際の悪いやっちゃなぁ。おまえのポリシーは『ラブアンドピース』やなかったんか」
「それとこれとは話が違うと思うけど?」
「まあまあ、ええやないか。ワイも人様に神の愛を伝えるさすらいの伝道師やさかいに」
「君は自分勝手なテロ牧師のエロ牧師だよ」
「ほんでも、そーゆーワイのことが気にいっとるんやろ?」
 その言葉に驚いたかのように、ヴァッシュは真正面から見つめた。
 わずかな逡巡の後、ふいと横を向いたヴァッシュは小さな声でつぶやいた。
「…………そうみたいだよ」
「な、そーゆーこっちゃ」 

 一晩明けて、憔悴した様子でヴァッシュはようやっと起きあがった。枕を抱えたまま恨みがましそうにベッドの横で煙草を吸っている相手をにらみつける。
「信じらんないよ、君ってヤツは」
「ええやんか、気持ち良かったろ?」
 ばすっ
 瞬時にトマト化した人間台風は、瞬速の技で昨晩の相手に枕をたたきつけた。
「っ! 聞くなよっ」
「危ないわ、煙草吸うとる人間に物投げんなや、トンガリ」 
「うるさいなっ」
 ぷりぷり怒りながら、バスルームに消えていく姿をベッドの上から見送りながら、何とはなしに笑いがこみ上げる。
 くつくつ笑いながら寝転がると、窓の外にふと目がいった。
 抜けるような青空。
  今日もええ天気やな。なぁ、トンガリ。

まひと:……………………
落ちてない、落ちてない---っっっ
やおってる? かおってます? っつーか、なんかニセモンってカンジ。
いまの私にはコレが精一杯……