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エデン

 ぼうっとヴァッシュはあてがわれた部屋の窓から街並みを見下ろしていた。
 暴走する兄弟を押しとどめて、なんとか人類ボクメツは止めさせたものの、交換条件に彼言うところの「エデン」に迎えられて、体のいい監禁状態が続いている。
 今は半ば廃墟と化したある街。そこを見下ろす高台にナイブズは住処を作っていた。
 部屋の窓は外に出るのにもGUN-HO-GUNSの監視が付くと知って、部屋の立てこもりを覚悟したときに、ナイブズにわがまま言って付けさせたものだ。
「だいたい、ナイブズもいい年こいて何なんだろうねぇ。僕のこと、なんか飾り物か宝物と間違えてるんじゃないの」
 実際、そう思われているのは確かだが、ヴァッシュ自身自覚がないだけに、今の状況は鬱陶しいことこの上ない。
 しかし、退屈なのにも程がある。
 ――前にナイブズを追いかけてウルフウッドやメリル、ミリィと旅していたときは、イロイロあって楽しかったのになァ。
 ぶつぶつとボヤきながら据えられたベッドにごろりと転がってうだうだしていると、扉からノックが聞こえてきた。
「開いてますよぉ〜」
 どうせ、そこにいるのは腐れ縁の兄弟だ。
「ヴァッシュ、そこにいるのか?」
「他にどこにもいけないでしょ?」
 寝転んで背を向けたままなげやりに返してやると、ナイブズは不満そうに腕を組んで見下ろしてきた。
「お前の望みどおりにしつらえてやってるのに、何が不満なんだ、ヴァッシュ」
「さーてねぇ〜?」
 ごろごろとうざったそうに返してやるのもいつものことだ。ナイブズもどうせマトモな返事なんて気にしてないのだろうから。
「まぁ、いい」と、ナイブズは自分からケリのつかない話題を打ち切ると、横になったヴァッシュの顔の両側に手をついた。
「俺はちょっと出かけてくるから、大人しくココで待ってるんだぞ」
「はいはい」
「もしかしたら、いいニュースを持ってきてやれるかもしれないがな」
 その声に不吉な響きを感じて、ヴァッシュはそっぽを向いていた視線をナイブズにひたりと合わせた。
「マサカ、保険屋さんやシップの人たちにになんかするんじゃないだろうね?」
 キッと睨んでやると、ナイブズは嬉しそうにヴァッシュに微笑んだ。
「ようやくこっちを見たな」
「人の話、ちゃんと聞いてるの? ナイブズ」
「お前の大事なものに手を出さないと、俺は約束したはずだが?」
「前例があるからねぇ?」
 不信感をたっぷり含ませて返してやると、ナイブズは「その目が見たかった」と薄く笑い、ヴァッシュの首筋に親愛のキスというにはいささか濃い痕を残した。
「心配するな。そいつらとは別口だ」
「人を傷つけたりはしないんだろうね」
「愚問だ」
 ナイブズは体重を感じさせない身のこなしで起き上がると、扉に向かう途中でふいにまだきつい視線を投げかけている半身を振り返った。
「2、3日程留守にする。奴らを残していくから、なにかあれば言うがいい」
「はいはい、いってらっしゃい」
 またもやベッドに沈み込んで、なげやりに手を振るヴァッシュを残して、扉はゆっくりと閉ざされた。


「…………っと」
 数時間後、完全に半身の気配が周辺の街から消えたのを確認して、ヴァッシュはむくりと起き上がった。
「あ〜、もうシツコイったらありゃしない。ったく未練がましいったら」
 ぶつぶつと呟きながら首の痕をごしごしと擦ると、ゆっくりと窓辺へ歩み寄った。窓に頭をこつんと預けて、ヴァッシュは目を閉じて何かを待つ。
 数分後、コツンと窓に小石があたったのにはっと気づいて、窓を開ける。
「ウルフウッドv」
 ぱっと満面の笑みを浮かべて、窓を開けるとそこからするりと牧師は入り込んできた。
「逢いたかったでぇ〜」
 すりすりすりすり。
抱きしめる胸板からは微かに煙草の匂いが残っている。大きくその匂いを吸い込むと、いつだって泣きたいような気持ちに駆られる。
 大の男に抱きしめられて嬉しいのも相手がウルフウッドだからだ。
 そんなコトを再認識しながら、ヴァッシュもウルフウッドに手を回した。
「また、エエ感じで外に出てくれたからなァ。アん兄ちゃんも」
「ほ〜んと、何やってんだか」
 憤懣やる形無しの恋人をなだめるように、額にこめかみにとキスの雨を降らせていた恋人は、ふと相手の首筋にさっきの痕を見つけてみるみるうちに不機嫌になった。
「なんや、また痕つけてったんか」
「うん。さっき、ナイブズがやったんだよぉ、だからウルフウッド……」
 ナイブズの前ではけして見せない甘えた様子でヴァッシュはうっとりと目を閉じた。
「なら、ワイが上から消したるわ」
 すぐに機嫌を直したウルフウッドは、その痕に舌を這わせてもう一度きつく吸い上げた。
「ナイブズ、2、3日帰ってこないって」
「そやってん。したら、少なくとも今日1ン日はゆっくり過ごせるってこっちゃな」
「こないだ逢ってから1ヶ月も待たされたんだよ?」
「ま、アチラさんもそうそうこちらの思い通りには動いてくれへんしなァ……ということで」
 と、ウルフウッドはひょいとヴァッシュをお姫様抱っこで抱えあげた。
「ほな、奥さんv 今日はゆっくり遊ばせてんか?」
「……なんか君が言うとみょ〜にヤラしいんだけど?」
「気のせい気のせいv」
 ベッドの上、押し倒されながらヴァッシュはくつくつと笑いをもらした。
「なんや?」
 コートの前を開いてゆっくりと指と舌を這わせるウルフウッドが睨んで見せると、ヴァッシュは誤魔化すかのように牧師の黒髪に手を差し入れてゆっくりと梳いた。
「え? ホラ、ナイブズもどーして気が付かないかなぁって」
「ワイ、そんなヘマするように見えるんか?」
 意地悪くも手荒く痕を残したウルフウッドの頭をかるく叩く。
「そんなん、バレとったらワイの命とっくの昔に消えとるやろ」
「ん〜確かにね」
「もっとも……」
 と、牧師は伸び上がって、軽くヴァッシュの口唇をついばんだ。
「兄ちゃんも、ワイが道案内してる最中にもう手ェつけとったとは思いもせんやったろ」
「僕なんか、いつもナイブズが出かけるたびに、君もいっしょに行っちゃったらどうしようって思ってるんだからね」
「そない心配せんでもいいがな。こないな寂しがりの別嬪さん、置いていけるかいな」
 本気ともつかないウルフウッドの軽口にくつくつと笑いながらヴァッシュは大事な相手に抱きついた。

 とりあえず、こういうエデンなら悪くないのに。
 自分を抱きしめてくれる、この腕の主さえいてくれたら。
 あとはもう何も要らない。



真人: ……こういうのを書く気はカケラもなかったのにっつーか、ヴァッシュ、既にラプンツェル     状態(笑)  とりあえず、「奥さん!米屋です」シリーズ(大嘘)ということで……。
    モカさん、こーゆーので良かったんでしたっけ?