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ザ・暑中見舞
〜ナイブズ編〜

 力ない音でヴァッシュがウルフウッドの部屋の扉を叩いたのは、その夜の日付がそろそろ変わろうかとしているときだった。
「なんや、トンガリ。ワイの高等テクでも拝みにきたんか?」
「……そんなわけないだろ」
 どこまで本気かわからない口調で笑い掛けたウルフウッドは、あまりにも困惑・呆然・悲哀の3拍子入り混じった表情を浮かべたヴァッシュの前に口をつぐんだ。何が起こったのか、がっくりと力を落としたその様子に知らず知らずの間に眉を顰める。部屋の中に招き入れてソファに座らせると、牧師はその手の中のカップに備え付けのポットのコーヒーを注いでやった。
「で? 何があったんや?」
 自分の分を注いで、話してみィと顎をしゃくってみせたウルフウッドに今だ蒼い顔のヴァッシュはコートのポケットから1枚の紙片を取り出した。
「さっき、夕食から帰ってきたら、こんなのがテーブルの上に乗ってたんだよ。もぅ、どうすればいいのかさっぱりわかんなくてさ」
 表に、やけに墨痕淋漓と『ヴァッシュ・ザ・スタンピード様』としたためられている。ひょいとひっくり返した牧師はその文面に、思いっきり口中のコーヒーを吹き出した。
  暑中お見舞申し上げます
   平素は格別のお引き立てを賜り心より御礼申し上げます
   今後ともなにとぞご支援、ご愛顧の程、お願い申し上げます
ミリオンズ・ナイブズ       
GUNG−HO−GUNS 一同』

 吹き出したときに気管に入ったらしく、派手にえほえほとむせ返るウルフウッドを尻目に、ヴァッシュは深刻な面持ちで手を揉み絞った。
「『ご支援ご愛顧』ってどうしろってことなんだかわかんないし、だいたい、『平素は格別のお引き立て』って俺が何したって言うんだよーっっ」
 あうあうと混乱の際みに達しているヴァッシュの側でもう1度しげしげと葉書を眺めながら、ウルフウッドは心の中で突っ込んだ。

  (GUNS−HO−GUNS一同ってなんやねん! ワイは聞いとらんで!?)
 まぁ、聞かれていたらそれはそれでイヤなような気もするが。

 複雑な気持ちで暑中見舞をためすがめつ眺めてた牧師は、不意にヴァッシュにしがみつかれて我に帰った。
「……ってさ、これ、返事書かなくちゃダメかな?」
「…………返事、書くんか?」
「前に、保険屋さんたちが暑中見舞(こーゆーの)は来たら返すのが礼儀って言ってたけど……」
「…………でもなぁコイツは違うやろ〜」

 しばし、顔を見合わせて黙り込んだ二人の背後で、ことり、と音がした。

 くるっぽゥ

 突然窓から聞こえてきたアヤシイ音に二人はびくっと窓を振り向いた。
「あ、なんだ…
…鳩さんか」
「……なんで、こないな真夜中に鳩がおるねんや……?」
 あまりのタイミングの良さにウルフウッドが不審な目を向けると、鳩はもういちど『くるっぽゥ』と鳴いたかと思うと『にやり』と笑い、そっぽを向いた。

 ……にやり?

 さらに不審を募らせ、窓へ歩み寄ろうとするウルフウッドにヴァッシュはがしっとその袖口にしがみつくと、今にも泣きそうな顔で尋ねた。
「ねぇ、ウルフウッド……。キミはどうしたらいいと思う?」
「そんなん言われてもなぁ……大体、ヤツラ、今どこにおるねんや」
 あっ、とヴァッシュが口を押さえた。
「どこにおるんかわからんヤツに返事なんぞ書けるかい!! アホンダラ」
「そっかー。じゃあ、返さなくてもいいよねー」
 さっすがウルフウッド、とおだててヴァッシュはにぱりと笑った。
「あー、これで肩の荷が下りたー。ありがとー。んじゃ、おやすみ〜」
「おう、また明日なー」
 来た時とは正反対の今にもスキップしそうな軽い足取りででていくヴァッシュをくわえ煙草で見送った牧師は、なんの気なしに窓を振り返った。

 あの、ハトの姿は既にない。

「……なんやったんや。あのけったいなハトは……?」


 そして、ナイブズとの感動のご対面……
「だいたい、ヴァーッシュ! お前、なんで暑中見舞に返事よこさなかったんだよっ!?」
「リターンアドレスも書いてなかったくせに何言ってるんだよ!? 行き先不明な手紙なんて書ける訳ないだろーがっ」
「そのために、ちゃーんと伝書鳩で送っただろーがっ!」
「ハト!? そんなの見てないぞ! 何言ってるんだよ、ナイブズ」

 果てしなく続く兄弟喧嘩を離れた場所から聞いていた牧師は、そこであの夜の鳩を不意に思い出した。
 (伝書鳩ってアレかー。確かにアヤシかったわなー)

「せっかく、仲直りしてやろうと思ってお前の好きな愚民共の真似をしてやったのに……!」
「なんだよ、それ! 自分のミスを棚に上げて何言ってるんだよ、ナイブズっ!
 お前なんて、だーいっ嫌いだっっ!」

「…ようもあんな会話続くなぁ」
 くるっぽゥ (にやり)
「お、お前、おったんかい」
 くるっ、くるっぽゥ (にやり)

 とりあえず、今のところはこの星は平和そうである。  
FIN.