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「暑中お見舞申し上げます
  平素は格別のお引立てを頂き心より御礼申し上げます
  暑さ厳しくなります折
  ご自愛の程お祈り申し上げます
ベルナルデリ保険協会         
                       メリル・ストライフ 
                         ミリィ・トンプソン 」

ザ・暑中見舞
〜ウルフウッド編〜

 例文通り、延々と書き連ねた葉書がまた1枚山に重ねられた。
 うららかな日差しの中、オープンカフェでの作業に没頭しているのは、言わずと知れた保険協会OL二人組である。
「やぁ、スゴイ葉書の量だねぇ」
 遅い朝食に降りてきたヴァッシュはその一種異様な雰囲気に目を丸くした。
 わき目も振らずにペンを滑らせていた二人は、ふっと視線を上げると疲れきった声で挨拶をした。インクが飛んで汚れた手で肩を叩いたメリルはまだまだ続く白い葉書の山に視線を流すと、がっくりと肩を叩いて特大の溜息をこぼした。

「後何枚ですの、ミリィ……?」
「たった、368枚ですよぅ。先輩、ガンバ!」
「先は長いですわねぇ〜」
「そんなにいっぱい何を書いてるんだい?」
 メリルはがっくりとテーブルの上に突っ伏して、あらぬことを口走りはじめた。
 自分で地雷原に踏みこんでしまった感のある彼女をつんつんと突っつく人間台風に苦笑しながら、ミリィはこれです!と住所書きの途中だった『かもめ〜る』をヴァッシュの鼻先につきつけた。
「……暑中見舞?」
「ええ、実は昨日いきなり、先輩が出すの忘れてたって言い出しまして。いくら、お仕事中とは言え、暑中見舞は社会人のたしなみですわって」
 見事に先輩の口調を再現したミリィに苦笑しながら、ヴァッシュはしげしげと葉書を見つめた。
 涼しげな花の絵に、几帳面なメリルの字が刻まれている。
「こんなにいっぱい、誰に出すんだい?」
「親しい人とか、今までお世話になった人たちですよ。後、会社の上司とか親戚とか! 私のは『月間ミリィちゃん夏の特大号』なんです」
 説明の後ろの方はあっさり耳からかっ飛ばし、ヴァッシュは何事か考え込んでいたが、不意に白紙の山から1枚ぴらりと取り上げた。
「なんだか、僕も書いてみたくなってきたよ。1枚貰ってってもいいかな?」
「どうぞどうぞvv」
 頑張ってくださいねーと手を振るミリィに応えて、自室へ戻ったヴァッシュは真面目な面持ちでペンを取り上げた。

「ほら、先輩現実逃避してないで起きてくださいよぅ」
「うう……っ、そうでしたわ! 今日の最終までに全部書き上げてしまわなくては大変ですものっ」
「そうですよっv もうちょっとです」
 ……OLの苦闘は続く。

 翌日、珍しくも早朝にウルフウッドが目を覚ますとドアの下から1枚のカードが顔を覗かせていた。
「なんや。宿の精算かい?」
 ぶつぶつと呟いてそれをつまみ上げる。宛先が白紙になったそれをひっくり返した瞬間、牧師の顔はにへら、と笑み崩れた。

  『暑中お見舞申し上げます
    いつも面倒かけてるけど
    これからもよろしく

             ヴァッシュ・ザ・スタンピード』

 バーンと扉が開け放たれ、ヴァッシュは寝呆け顔のまま飛びあがった。
「な、なんなんだいっ!?」
 扉の向こうには言わずと知れた旅の連れ。
「どうしたんだい、ウルフウッド!? こんな朝っぱらから」
 応えずにずかずかとウルフウッドはベッドの側まで歩み寄ると、がしっとヴァッシュの身体を抱きしめた。瞬間、逃げかけようとする人間台風を構わず巨大な十字架の仕込銃をぶん回す力で封じ込める。
「……いつも会うとるワイにわざわざ暑中見舞くれるやなんて、そないにワイのこと気にかけてくれっとんたんか」
「……? ウルフウッド? 何言ってるんだい、キミは?」
「オンドレの気持ちはよ〜う、分かった。したら、ワイはこの身体!で応えさせてもらうさかいな、はにーvv」
 その語尾に紛れもなく付けられた「v」マークに多大な不安を抱いて、ヴァッシュはひくりと身体を強張らせた。
「な……なにでだって? ウルフウッド!?」
「ワイの愛、受け取ったってや、ヴァッシュ!」



今日の言葉……世界は牧師で回ってる(笑)
FIN

今回もまたしてもオチなく終わってますが、残暑お見舞いということでお納め下さいませませ。